2022/2/2

2023/01/06

旅行業登録をするためには何がいる?旅行業の登録要件をわかりやすく解説しました。

この記事の監修
時村 公之

行政書士つなぐ法務事務所 代表(特定行政書士/国内旅行業務取扱管理者)

時村 公之

1973年1月生まれ/広島県出身
旅行業・旅館業に特化した、中国・四国地方随一の観光法務専門の行政書士。
株式会社や個人事業主はもちろんのこと、観光協会やツーリズム機構などの一般社団法人の旅行業登録も手掛ける。
支援先企業も中国・四国地方を中心に、北陸・東海・関西・九州方面と、幅広いエリアで旅行業登録に関する支援を行っている。

あなたは、旅行業登録に必要な「登録要件」を全て知っていますか?「旅行業に関する資格を持っている人が必要」とか「基準資産額や営業保証金など、最初に必要になるお金がある」など、ある程度は分かっていても全てを把握できている方は少ないのではないでしょうか?

そこで旅行業登録を専門で取り扱う行政書士が、旅行業登録の「登録要件」について丁寧に解説します。

記事の最後に、全ての登録要件を網羅したチェックリストもありますので、これから旅行業登録を検討したいという方は、是非参考にして下さい。

1.登録要件は「ヒト」「モノ」「カネ」

旅行業登録に限ったことでは無いのですが、いわゆる許認可というのは、その商品・サービスを取り扱おうとする事業者に対して、一定のハードルを設けて、そのハードルをクリアできる事業者にのみに商品・サービスの取扱いを認めるという仕組みを取っています。

これは、商品・サービスを提供する事業者の質を担保することで、その事業者からサービスを受ける消費者を保護しようとしているわけです。

事業者の質を担保するためのハードルのことを「要件」と言います。一般的には、「ヒト」「モノ」「カネ」の3つの項目で構成されていることが多いです。

旅行業登録についても、「ヒト」「モノ」「カネ」のそれぞれの項目に「登録要件」が設けられています。

旅行業登録をするための「登録要件」は、以下の通りです。

分類 登録要件
ヒト 申請者が拒否事由に該当しないこと
営業所ごとに旅行業務取扱管理者を確実に選任できること
事業目的に「旅行業」もしくは「旅行業法に基づく旅行業」と記載があること
モノ 旅行業務をおこなえる「営業所」を確保できていること
カネ 基準資産額を有していること
営業保証金の供託もしくは弁済業務保証金分担金の納付をすること

それでは、各項目について詳しく解説していきましょう。

2.要件1:ヒト

「ヒト」に関する要件は、①申請者が拒否事由に該当していないこと②営業所ごとに旅行業務取扱管理者を選任できること③法人の事業目的に「旅行業」もしくは「旅行業法に基づく旅行業」の記載があること、の3つになります。

2-1.①申請者が拒否事由に該当していないこと

旅行業法(以下、法)第6条には、登録拒否事由が定められていて、このうち第1項~第8項は、申請者がこれらのどれかに該当すると旅行業登録ができないという項目になります。

法第6条第1項~第8項をまとめると、次のようになります。

拒否事由
(1) 過去5年間に旅行業等の登録を取り消された者(または、過去5年間に旅行業等の登録を取消された法人において、当時役員であった者)
(2) 過去5年間に禁錮以上の刑、または旅行業法に違反して罰金刑に処せられた者
(3) 暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者
(4) 申請前5年以内に旅行業務等に関し不正な行為をした者
(5) 未成年者でその法定代理人(親権者等)が、(1)~(5)のいずれかに該当するもの
(6) 心身の故障により旅行業、旅行業者代理業を適正に遂行することができない者として国土交通省令で定めるもの又は破産手続き開始の決定を受けて復権を得ない者
(7) 申請者が法人の場合、(1)~(4)、(6)のいずれかに該当する役員がいるもの
(8) 暴力団員等がその事業活動を支配する者

※e-GOV法令検索「旅行業法」をもとに行政書士つなぐ法務事務所にて作成

もし、申請者が(1)~(8)の項目のどれか1つにでも該当すると、旅行業登録をすることはできません。

2-2.②営業所ごとに旅行業務取扱管理者を選任できること

旅行業務取扱管理者とは、旅行業者が法令に基づいた運営を行うよう管理・監督をする役割を担う人のことで、営業所ごとに選任することが義務付けられています(法第11条の2)。

旅行業務取扱管理者の具体的な役割は、以下の10項目です(法規則第10条)。

① 旅行に関する計画の作成に関する事項
② 旅行業務の取扱い料金の掲示に関する事項
③ 旅行業約款の掲示及び備置きに関する事項
④ 取引条件の説明に関する事項
⑤ 契約書面の交付に関する事項
⑥ 旅行の広告に関する事項
⑦ 運送等サービスの確実な提供等による企画旅行の円滑な実施に関する事項
⑧ 旅行に関する苦情の処理に関する事項
⑨ 契約締結の年月日、契約の相手方その他の旅行者又は旅行に関するサービスを提供する者と締結した契約の内容に係る重要な事項についての明確な記録又は関係書類の保管に関する事項
⑩ 上記のほか、取引の公正、旅行の安全及び旅行者の利便を確保するため必要な事項として観光庁長官が定める事項

引用:一般社団法人日本旅行業協会「旅行業法解説 約款例集解説」

旅行業務取扱管理者は、誰でも選任できるわけではなく、「旅行業務取扱管理者試験」に合格した者から選任します。

もし、第1種旅行業登録をして、海外の募集型企画旅行を取り扱うのであれば、「総合旅行業務取扱管理者」試験の合格者を選任します。

同様に、国内旅行のみを扱うのであれば「総合旅行業務取扱管理者」または「国内旅行業務取扱管理者」試験の合格者、隣接市町村等のみで旅行業務を取り扱うのであれば、「総合旅行業務取扱管理者」「国内旅行業務取扱管理者」「地域限定旅行業務取扱管理者」試験のいずれかの合格者から選任します(法第11条の2第6項第1号から第3号)。

旅行業務取扱管理者については、別の記事で詳しくご案内します。

2-3.法人の事業目的

法人を設立して旅行業登録をする場合は、必ず「旅行業」もしくは「旅行業法に基づく旅行業」のどちらかを事業目的に入れておきましょう。

これ以外の目的(例:「旅行代理店の運営」「旅行会社の経営」など)では、受け付けてもらえません。

ちなみに、法人で旅行業者代理業を行う場合は、同じく定款と登記事項証明書(登記簿謄本)の事業目的に「旅行業者代理業」もしくは「旅行業法に基づく旅行業者代理業」のどちらかを記載しておきましょう。

3.要件2:モノ

「モノ」に関する要件は、「営業所」として使用をできる物件を用意していることです。

実は法令には、設備要件について定められた条項は無いのですが、条例で営業所の使用権限があることを証明する書類の提出を義務付けている登録行政庁(東京都など)があります。また、物件の様態によっては、営業所として認められない場合もあります。

そこで、旅行業務をおこなう営業所として認められる物件について確認していきましょう。

3-1.営業所が「自己所有物件」の場合

営業所として使用する自己所有物件が一戸建てであれば、特に問題なく営業所として使用することができます。

一方で、マンション等の集合住宅である場合は、入居住人の同意が必要となる場合があります。具体的には、マンションの管理組合の同意書や、事務所使用を認める旨が記載された管理組合規約などの提出を求められます。

3-2.営業所が「賃貸物件」の場合

営業所として使用する建物が賃貸物件の場合、営業所として認められない場合があります。

まず、最初から事務所としての使用が認められている事業用テナントは、もちろん営業所として使用できます。アパートのような集合住宅でも、事務所としての使用が認められている物件であれば、営業所として使用できます。

レンタルオフィスについては、「室内が外から見えない」「部外者の立ち入りができない」などの要件を満たす個室型のものであれば営業所としの使用が認められる可能性が高いです。

一方、同じレンタルオフィスでもフリーデスクタイプの場合は、営業所として使用することは難しいです。

バーチャルオフィスについても、営業所として使用することは難しいでしょう。

4.要件3:カネ

「カネ」に関する要件には、①基準資産額、②営業保証金(または弁済業務保証金分担金。以下、営業保証金等)、の2つがあります。

4-1.基準資産額

旅行業者に財産的基礎を確保させることを目的として、法は基準を設け、旅行業者に基準以上の資産を確保することを旅行業登録の要件としています。この基準となる資産の金額のことを「基準資産額」と言います。

自社の基準資産額は以下の計算式で算出します。

自社の基準資産額=資産の総額-負債の総額-繰延資産-営業権(のれん)-不良債権-営業保証金等

登録種別ごとに、必要とされる基準資産額は決まっています。上の計算式で算出した自社の基準資産額が、下表にある基準資産額を上回っていれば、基準資産額を満たしていることになります。

登録種別 基準資産額
第一種旅行業 3,000万円
第二種旅行業者 700万円
第三種旅行業者 300万円
地域限定旅行業者 100万円

基準資産額については、以下の記事で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。

旅行業に必要な基準資産額の計算方法や足りない時の対処法を解説

4-2.営業保証金と弁済業務保証金分担金

旅行業法では、事前に費用などを旅行者から預かっている旅行業者が、倒産などの理由で旅行を実行できず、預かった費用も返還できないというような事態がおこった場合に備えて、あらかじめ旅行業者に万が一の費用をプールしておく制度を設けています。

この制度には、「営業保証金制度」と「弁済業務保証金制度」の2つの制度があります。

4-2-1.営業保証金

営業保証金制度は、あらかじめ供託所に一定の額のお金(供託金)を供託しておいて、万が一の場合はその供託金の範囲内で旅行者の損害を補填する制度です。この供託金のことを「営業保証金」といいます。

営業保証金の額は、以下のように、前年の旅行業務に関する旅行者との取引額に応じて登録種別ごとに定められています。

前事業年度における旅行業務に関する旅行者との取引の額 営業保証金
第1種 第2種 第3種 地域限定
400万円未満 7,000万円 1,100万円 300万円 15万円
5,000万円未満 7,000万円 1,100万円 300万円 100万円
2億円未満 7,000万円 1,100万円 300万円 300万円
2億円以上4億円未満 7,000万円 1,100万円 450万円 450万円
(以下略)

営業保証金については、以下の記事で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。

営業保証金を供託するってどうするの?制度の概要や必要な金額も詳しく解説

4-2-2.弁済業務保証金分担金

弁済業務保証金制度は、供託所ではなく旅行業協会にお金を納付します。この時に納付するお金のことを「弁済業務保証金分担金」といいます。

旅行業者に万が一の事態が起こった場合は、旅行業協会が旅行者への弁済を行います。

弁済業務保証金分担金のメリットは、その額が営業保証金の1/5であるという点です。なお、旅行者への弁済は、旅行業者が支払った弁済業務保証金分担金の5倍の額の範囲(つまり営業保証金と同額)で行われます。

旅行業協会に納付する弁済業務保証金分担金の金額は、下表の通りです。

前事業年度における旅行業務に関する旅行者との取引の額 弁済業務保証金分担金
第1種 第2種 第3種 地域限定
400万円未満 1,400万円 220万円 60万円 3万円
5,000万円未満 1,400万円 220万円 60万円 20万円
2億円未満 1,400万円 220万円 60万円 60万円
2億円以上4億円未満 1,400万円 220万円 90万円 90万円
(以下略)

弁済業務保証金分担金については、以下の記事で詳しく解説していますので、併せてご覧下さい。

旅行業協会と弁済業務保証金分担金。営業保証金との違いも徹底解説!

5.旅行業登録のチェックリスト

ここまでご案内した内容をもとに、簡単なチェックリストを作りました。

【ヒト要件について】※全てにチェックがつくこと

申請者(法人の場合は、法人と法人の役員)が、拒否事由に該当しない
選任する旅行業務取扱管理者が、拒否事由に該当しない
選任する旅行業務取扱管理者が、業務範囲に対応した旅行業務取扱管理者試験の合格者である
営業所の従業員数が10名以上の場合、2名以上の旅行業務取扱管理者を選任できている
選任する旅行業務取扱管理者の常用性・常勤性が確保されている
定款および登記簿謄本の事業目的に「旅行業」もしくは「旅行業法に基づく旅行業」と記載がある(法人のみ)

【モノ要件について】※どれかひとつにチェックがつくこと。

「営業所」が自己所有の一戸建てである
「営業所」が自己所有の集合住宅で、管理組合の許可等がある
「営業所」が賃貸物件で、事業所としての使用が認められている
「営業所」がシェアオフィスで、事務所スペースは壁や扉で完全に区画されている

【カネ要件について】※全てにチェックがつくこと

登録区分に応じた基準資産額が確保できている
営業保証金の供託もしくは弁済業務保証金分担金を納付できる

このチェックリストが埋まれば、わが社は旅行業登録の要件を満たしていますよ。

6.まとめ

旅行業登録の登録要件について、詳しく解説してみましたが、いかがだったでしょうか?

旅行業登録をするためには「ヒト」「モノ」「カネ」の全ての要件を満たさなければならいわけですが、特に「カネ」にまつわる要件は、気になる方も多いのではないでしょうか?

もし、基準資産額や営業保証金、弁済業務保証金分担金などについて、もう少し詳しく知りたいという方は、ぜひリンク先の記事もお読みください。

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