2021/12/12
2023/02/14
旅行業協会と弁済業務保証金分担金。営業保証金との違いも徹底解説!
旅行業登録の際に、営業保証金を供託する代わりに弁済業務保証金分担金を旅行業協会に納付すると、納付額が5分の1ですむということはご存じの方も多いと思いますが、「営業保証金と弁済業務保証金分担金の違いってなんなの?」とか「弁済業務保証金分担金にデメリットはないの」といった疑問を持つ方はいませんか?
そこで、弁済業務保証金制度について、旅行業登録を専門で取り扱う行政書士が、制度の概要や営業保証金との違いなどについて丁寧に解説しました。是非、参考にしてみてください。
1.弁済業務保証金制度とは
はじめに、弁済業務保証金制度の概要や仕組みについて解説していきます。
「弁済業務保証金分担金の具体的な内容を知りたい!」という方は、「2.弁済業務保証金分担金の納付額」から読み進めてください。
1-1.弁済業務保証金制度は、旅行業協会が運用している
営業保証金制度と弁済業務保証金制度は、どちらも定められた金額を納付しなければ旅行業務が始められないという点は共通しているのですが、営業保証金制度が、旅行業者が供託所に営業保証金を供託するのに対して、弁済業務保証制度は、旅行業協会が社員(=協会員)から弁済業務保証金分担金を集めて、この分担金を協会が弁済業務保証金として供託しているという点に違いがあります。
それでは、この弁済業務保証金制度を運用している旅行業協会とは、どういった団体なのでしょうか?
旅行業法(以下、法)第41条では、旅行業協会について以下のように定めています。
(指定)
第41条 観光庁長官は、次に掲げる要件を備える者の申請があつた場合において、その者が次条各号(第42条1~5号)に掲げる業務の全部について適正な計画を有し、かつ、確実にその業務を行うことができると認められるときは、この章に定めるところにより同条各号に掲げる業務を行う者として、指定することができる。
1 申請者が一般社団法人であること。
2~6 (以下略)引用:e-GOV法令検索「旅行業法」https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=327AC1000000239
つまり、旅行業協会とは、法第41条の第1~6号の要件を満たし、かつ法第42条に定めた業務を遂行する能力のある者として、観光庁長官が指定した団体のことを言います。
現在、観光庁長官は、「一般社団法人日本旅行業協会(通称:JATA)」と「一般社団法人全国旅行業協会(通称:ANTA)」という2つの団体を旅行業協会として指定しています。
改めて、法42条にある旅行業協会の業務をご案内すると、次のようになります。
- 旅行者などからの旅行業者などに対する苦情の解決
- 旅行業務などの取扱いに従事する者に対する研修
- 弁済業務
- 旅行業務などの適切な運営を確保するための旅行業者などに対する指導
- 取引の公正の確保や健全な発展を図るための調査、研究及び広報
「3.弁済業務」が弁済業務保証金制度のことですから、弁済業務補諸金制度の運用は、旅行業協会が取り扱う業務の柱のひとつと言えます。
なお、旅行業協会への入会は強制ではなく任意です。営業保証金を供託すれば、旅行業協会に入会しなくても旅行業を始めることはできます。
1-2.弁済業務保証金制度とは
次に、弁済業務保証金制度について解説していきましょう。
弁済業務保証金制度について、観光庁の資料では、以下のように紹介されています。
旅行業協会の正会員である旅行業者(保証社員)と旅行業務に関して取引をした旅行者がその取引によって生じた債権について、旅行業協会が国に供託した弁済業務保証金から一定の範囲で旅行者に弁済する制度
引用:観光庁「営業保証金制度及び弁済業務保証金制度の概要」より
もう少しかみ砕いて説明しますと、営業保証金制度では、旅行業者自らが営業保証金を供託しておいて、万が一販売した旅行商品が実施できず、返金もできないような事態(=債務不履行)に陥った場合は、供託しておいた営業保証金から弁済を行います。
一方で、弁済業務保証金制度では、旅行業者は旅行業協会に入会して、弁済業務規約で定める金額(営業保証金の1/5)を弁済業務保証金分担金として旅行業協会に納付します(旅行業法(以下、法)第49条第1項)。
旅行業協会は、納付された弁済業務保証金分担金と同額のお金を弁済業務保証金として供託所に供託して(法第47条)、もし加入した旅行業者が債務不履行に陥った場合は、弁済業務規約で定める弁済限度額(弁済業務保証金分担金の額の5倍)の範囲内で、弁済業務保証金の中から旅行者に弁済する(法48条)という仕組みになっています。
ちなみに、旅行業協会に入会して、弁済業務保証金分担金を納付した旅行業者のことを「保証社員(法第48条第1項)」といいますが、保証社員は営業保証金の供託が免除されます(法第53条)。
(営業保証金の供託の免除)
第五十三条 保証社員は、第四十八条第一項の観光庁長官の指定する弁済業務開始日以後、この法律の規定による営業保証金を供託することを要しない。引用:e-GOV法令検索「旅行業法」https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=327AC1000000239
弁済業務保証金分担金は営業保証金の1/5の金額ですので、旅行業協会に入会して弁済業務保証金制度を利用すると、事業スタート時のイニシャルコストを抑えることができるという点が、最大のメリットといえます。
弁済業務保証金制度を図で表すと、以下のようになります。
出展:〔資料〕営業保証金制度及び弁済業務保証金制度の概要(観光庁)より
2.弁済業務保証金分担金の納付額
それでは、実際に弁済業務保証金分担金をいくら納付しなければならないのかを確認していきましょう。
2-1.弁済業務保証金分担金
最初にご案内したとおり、旅行業協会は「一般社団法人日本旅行業協会(通称:JATA)」と「一般社団法人全国旅行業協会(通称:ANTA)」という2つの団体が指定を受けていて、それぞれに弁済業務規約を定めています。
弁済業務保証金分担金の額について、どちらの協会も営業保証金の1/5の額を納付額として定めています。
旅行業協会が定める弁済業務保証金分担金の額は以下のようになります。
前事業年度における旅行業務に関する旅行者との取引額 | 弁済業務保証金分担金の額(単位:万円) | |||
第1種旅行業者 | 第2種旅行業者 | 第3種旅行業者 | 地域限定旅行業者 | |
400万円未満 | 1,400 | 220 | 60 | 3 |
5,000万円未満 | 1,400 | 220 | 60 | 20 |
2億円未満 | 1,400 | 220 | 60 | 60 |
2億円以上4億円未満 | 1,400 | 220 | 90 | 90 |
4億円以上7億円未満 | 1,400 | 220 | 150 | 150 |
7億円以上10億円未満 | 1,400 | 260 | 180 | 180 |
10億円以上15億円未満 | 1,400 | 280 | 200 | 200 |
15億円以上20億円未満 | 1,400 | 300 | 220 | 220 |
20億円以上30億円未満 | 1,400 | 310 | 240 | 240 |
30億円以上40億円未満 | 1,400 | 360 | 260 | 260 |
40億円以上50億円未満 | 1,400 | 380 | 280 | 280 |
50億円以上60億円未満 | 1,400 | 460 | 320 | 320 |
60億円以上70億円未満 | 1,400 | 540 | 380 | 380 |
70億円以上80億円未満 | 1,600 | 600 | 440 | 440 |
(以下略) |
後段でも解説しますが、旅行業者は毎事業年度ごとに監督行政庁に1年間の旅行業における取引額を報告する義務があります。
もし、その際に取引額が上がって納めるべき弁済業務保証金分担金の額が上がった場合は、このタイミングで不足分を追加で納付しなければなりません。
2-2.新規登録の場合の弁済業務保証金分担金
では、新規で旅行業登録を行う場合は、弁済業務保証金分担金をいくら納付すればよいのでしょうか?
新規で旅行業登録を行う事業者は、前年の旅行業務に関する取引はありませんから、弁済業務保証金分担金の額は、初年度の取引見込み額をもとに算定します。ですので、新規登録者が旅行業協会に弁済業務保証金分担金を納付する場合は、この最低額を納付することがほとんどです。
弁済業務保証金分担金の最低額について、改めてご案内すると次のようになります。
区分 | 弁済業務保証金分担金 | 取引額 |
第1種旅行業者 | 1,400万円 | 70億円未満 |
第2種旅行業者 | 220万円 | 7億円未満 |
第3種旅行業者 | 60万円 | 2億円未満 |
地域限定旅行業者 | 3万円 | 400万円未満 |
2-3.弁済業務保証金分担金には、営業保証金にはないコストがある?!
ここまでの解説を読むと、営業保証金を供託するより、その1/5で済む弁済業務保証金分担金を旅行業協会に納付した方が、断然お得なように見えますが、実はそうとも言い切れません。
なぜなら、弁済業務保証金制度を利用するためには、2つある旅行業協会のどちらかに入会することを必須条件なのですが、これらの旅行業協会に入会するには、入会金や年会費を協会等に納付しなければならないからです。
それぞれの旅行業協会の入会金や年会費は以下のようになります。
登録種別 | JATA | ANTA | ||
入会金 | 年会費 | 入会金 | 年会費 | |
第1種旅行業者 | 80万円 | 35万円 | 約250万円 | 約10万円 |
第2種旅行業者 | 約100万円 | |||
第3種旅行業者 | 約90万円 | |||
地域限定旅行業者 | 約70万円 |
ANTAは、本部に加えて支部や組合に入会金や年会費を支払うので、表にある額はその合計金額になります。支部ごとに入会金や年会費の金額が若干異なります。一方、JATAは東京に本部があるのみで、支部はありません。
こうしてみると、旅行業の登録種別や取引額によっては、営業保証金制度を利用した方が費用を抑えられる場合があることにお気づき頂けるのではないかと思います。
勿論、旅行業協会に入会するメリットは、弁済業務保証金制度だけではなく、協会が扱う災害補償制度が利用できたり、協会主催の研修の受講や業界の最新情報などがうけられたりと、様々ありますので、それらも含めて総合的に判断すると良いのですが、弁済業務保証金制度を利用することが、必ずしも費用を抑えられるわけではないということは理解しておきましょう。
2-4.弁済業務保証金分担金の納付は、金銭のみ
営業保証金制度では金銭以外で供託することが認められていますが、弁済業務保証金分担金は、金銭以外の納付は認められていません。
3.弁済業務保証金分担金を納付する
弁済業務保証金分担金は、旅行業協会に納付します。
はじめに、入会する旅行業協会に弁済業務保証金分担金納付書を提出します。そうすると、旅行業協会は、この納付書に「納付金額」「納付期限」「振込先」などを記載してくれます。
次に、指令された振込先に指定された金額の弁済業務保証金分担金を振り込みます。旅行業協会は、弁済業務保証金分担金が振り込まれたことを確認したら、受理書を交付します。
最後に、この受理書の写しを登録行政庁に届け出て、初めて旅行業を始めることができます。
4.追加で弁済業務保証金分担金を納付しなければいけない場面とは
ここまで新規で旅行業登録をする場合の弁済業務保証金分担金の納付について解説してきたのですが、登録完了後も弁済業務保証金分担金を追加で納付しなければならない時というのが3つあります。
4-1.旅行者との取引額が増加した場合
例えば、これまで旅行者との取引額が7億円未満だった第2種旅行業者において、取引額が7億円を超えた場合には、既に納付している弁済業務保証金分担金に不足する額を追加で納付しなければなりません(法第49条第2項)。
この場合の納付を行なわなければならない期間は、毎事業年度終了後100日以内で、この期間内に納付を行わなければ、旅行業協会の社員の地位を失ってしまいます(法第49条第4項)。
4-2.変更登録をした場合
例えば、第3種旅行業者から第2種旅行業者に変更登録した場合、旅行者との取引額は同じでも弁済業務保証金分担金の額は変わります。ですので、変更登録をした結果、弁済業務保証金分担金の額が不足する場合は、その不足する額を追加で納付しなければなりません(法第49条第2項)。
納付を行わなければならない期間は変更登録を受けた日から14日以内で、この期間内に納付を行わなければ、旅行業協会の社員の地位を失ってしまいます(法第49条第4項)。
4-3.弁済業務保証金分担金の額が改正された場合
旅行業協会が弁済業務保証金分担金の額を改正した場合で、その結果、納付すべき弁済業務保証金分担金の額が不足する場合は、その不足する額を旅行業協会に追加で納付しなければなりません(法第49条第3項)。
納付の期間は、弁済業務規約で定められ、この定められた期日までに納付を行わなければ、旅行業協会の社員の地位を失ってしまいます(法第49条第4項)。
5.弁済業務保証金分担金が取り戻せる場面とは
追加で納付をしなければいけない時があるということは、逆に弁済業務保証金分担金が取り戻せる時もあります。
5-1.旅行者との取引額が減少した場合
旅行者との取引額が減少して、納付している弁済業務保証金分担金の額が、納付しなければならない額を超える場合は、その超える額の弁済業務保証金分担金を取り戻すことができます(法第51条第1項・第3項)。
5-2.変更登録をした場合
変更登録をしたことで、納付している弁済業務保証金分担金の額が、納付しなければならない額を超える場合は、その超える額の弁済業務保証金分担金を取り戻すことができます(法第51条第1項・第3項)。
5-3.弁済業務保証金分担金の額が改正された場合
旅行業協会が定める弁済業務規約の変更により、弁済業務保証金分担金の額が改正された場合で、納付しなければならない額を超える場合は、その超える額の弁済業務保証金分担金を取り戻すことができます(法第51条第2項・第3項)。
5-4.旅行業協会を退会した場合
旅行業協会を退会するなどして社員の地位を失った場合は、それまで納付していた弁済業務保証金分担金を取り戻すことができます(法第51条第1項・第3項)。
6.まとめ
弁済業務保証金制度の仕組みや、弁済業務保証金分担金の額、納付方法などについて詳しく解説してみましたが、いかがだったでしょうか?
「営業保証金と弁済業務保証金分担金のどちらを選ぶべきか」というのは、旅行業登録をする際に、必ず検討することになる問題です。ぜひ、両方の制度の仕組みや内容をよく理解したうえで、ご自身にあった制度を選んでください。
営業保証金についても、詳しく解説した記事がありますので、よろしければそちらもご覧ください。
営業保証金を供託するってどうするの?制度の概要や必要な金額も詳しく解説