2021/12/12

2022/04/01

営業保証金を供託するってどうするの?制度の概要や必要な金額も詳しく解説

この記事の監修
時村 公之

行政書士つなぐ法務事務所 代表(特定行政書士/国内旅行業務取扱管理者)

時村 公之

1973年1月生まれ/広島県出身
旅行業・旅館業に特化した、中国・四国地方随一の観光法務専門の行政書士。
株式会社や個人事業主はもちろんのこと、観光協会やツーリズム機構などの一般社団法人の旅行業登録も手掛ける。
支援先企業も中国・四国地方を中心に、北陸・東海・関西・九州方面と、幅広いエリアで旅行業登録に関する支援を行っている。

旅行業登録の際には、営業保証金(もしくは弁済業務保証金分担金)を供託しなければ事業を始めることはできないのですが、「そもそも営業保証金ってなんなの」「自分が旅行業登録するためには、いくら必要なの」という疑問を抱えていらっしゃる方のために、旅行業登録を専門で取り扱う行政書士が、営業保証金制度の概要や旅行業登録に必要な営業保証金の金額などについて丁寧に解説しました。

「営業保証金の供託ってどうやったらいいの」という方のために、供託の手順についてもご案内しているので、是非参考にしてみてください。

1.営業保証金制度の概要

はじめに、営業保証金制度の概要や制度の仕組み、意義について解説していきます。

「早く営業保証金の供託額が知りたい」という方は、「2.営業保証金の供託額」から読み進めてください。

1-1.旅行業登録をするだけでは、旅行業務はできない?!

旅行業法(以下、法)は、以下のように旅行業者に営業保証金の供託を義務付けていて、営業保証金を供託しなければ、旅行業務を始めることができません。

(営業保証金の供託)
第7条 旅行業者は、営業保証金を供託しなければならない。
2 旅行業者は、営業保証金の供託をしたときは、供託物受入れの記載のある供託書の写しを添付して、その旨を観光庁長官に届け出なければならない。 
3 旅行業者は、前項の届出をした後でなければ、その事業を開始してはならない。
4 (以下略)

引用:e-GOV法令検索「旅行業法」https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=327AC1000000239

第3項にあるように、仮に旅協業登録を終えて登録番号が発番されていても、この営業保証金の供託手続きが完了していなければ、旅行業を開始することはできないのです。

ここまでで、「旅行業を始めるためには、必ず営業保証金を供託しなければいけないんだな」ということがお判りいただけたと思うのですが、それではそもそも「供託」とはどういった手続きなのでしょうか。

次にこの「供託」と「営業保証金制度」について解説していきます。

1-2.供託と営業保証金制度

法務省のHPでは、供託について以下のように紹介しています。

供託とは、金銭、有価証券などを国家機関である供託所に提出して、その管理を委ね、最終的には供託所がその財産をある人に取得させることによって、一定の法律上の目的を達成しようとするために設けられている制度です。(後略)

引用:法務省「供託手続」(第1 供託とは)https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07.html

供託とは、ある目的のために、あらかじめ供託所に金銭等を預け入れておく制度です。供託原因によって「弁済供託」「保証供託」「執行供託」など、いくつかの種類があって、その中で旅行業法の供託は「営業保証供託」と呼ばれています。

「営業保証供託」は、営業者がその営業活動により生ずる債務ないし損害を担保するためにする供託で、営業者は、事前に供託所に金銭等を供託しておいて、万が一の際には、その供託金から相手方の損害等を補填します。

旅行業以外には宅地建物取引業や割賦販売業でも規定されています。

旅行業法では、事前に旅行業者が金銭等(=営業保証金)を供託所に供託し、旅行業者が旅行商品を提供できないなどの債務不履行に陥った際に、供託された営業保証金から一定の範囲内で旅行者に弁済するという仕組みになっています。

これが「営業保証金制度」です。

制度の全体像を図で表すと、以下のようになります。

出展:〔資料〕営業保証金制度及び弁済業務保証金制度の概要(観光庁)

1-3.営業保証金制度が設けられている理由

ところで、なぜ法は営業保証金という制度を設けているのでしょうか?

旅行業務は、事業を始めるために必要なものというのが、事務所や事務機器(PC、電話、デスク等)などで、比較的少ない資本で事業を始めることができます。その一方で、事業が始まると、旅行者との取引額は必ずしも少なくありません。

その為、既に旅行代金を受け取っている旅行商品について、旅行が実施できないというような事態(債務不履行)が起きたときに、手元に十分な資金がなくて、旅行代金が返金できないというような事態に陥りやすいともいえます。

そこで法は、万が一に備え、旅行業務をあつかう旅行業者に一定の金額を「営業保証金」として事前に供託させることで、旅行業者や旅行業代理業者と旅行業務に関し取引をする旅行者(消費者)の保護を図っているわけです。

2.営業保証金の供託額

それでは、実際に営業保証金としてどれだけの金額を供託しなければならないのかについて見て行きましょう。

2-1.営業保証金額

営業保証金の額は、旅行業法施行規則の別表第一で定められています。供託すべき金額は、登録種別と前事業年度の取引額に応じて、以下の表のとおりになっています。

前事業年度における旅行業務に関する旅行者との取引額 営業保証金の額(単位:万円)
第1種旅行業者 第2種旅行業者 第3種旅行業者 地域限定旅行業者
400万円未満 7,000 1,100 300 15
5,000万円未満 7,000 1,100 300 100
2億円未満 7,000 1,100 300 300
2億円以上4億円未満 7,000 1,100 450 450
4億円以上7億円未満 7,000 1,100 750 750
7億円以上10億円未満 7,000 1,300 900 900
10億円以上15億円未満 7,000 1,400 1,000 1,000
15億円以上20億円未満 7,000 1,500 1,100 1,100
20億円以上30億円未満 7,000 1,600 1,200 1,200
30億円以上40億円未満 7,000 1,800 1,300 1,300
40億円以上50億円未満 7,000 1,900 1,400 1,400
50億円以上60億円未満 7,000 2,300 1,600 1,600
60億円以上70億円未満 7,000 2,700 1,900 1,900
70億円以上80億円未満 8,000 3,000 2,200 2,200
(以下略)

後段でも解説しますが、旅行業者は毎事業年度ごとに監督行政庁に1年間の旅行業における取引額を報告する義務があります。

もし、その際に取引額が上がって納めるべき営業保証金の額が上がった場合は、このタイミングで不足分を追加で供託しなければなりません。

2-2.新規登録の場合の営業保証金額

では、新規で旅行業登録を行う場合は、営業保証金をいくら供託すればよいのでしょうか?

新規登録の場合、前年の旅行業務に関する取引はないので、営業保証金額は、初年度の取引見込み額をもとに算定します。ですので、新規登録で営業保証金を供託する場合は、登録種別の最低額を供託することがほとんどです。

営業保証金の最低額は、次のようになります。

区分 営業保証金額 取引額
第1種旅行業者 7,000万円 70億円未満
第2種旅行業者 1,100万円 7億円未満
第3種旅行業者 300万円 2億円未満
地域限定旅行業者 15万円 400万円未満

2-3.営業保証金は、金銭以外でも供託できる?!

営業保証金の供託は、以下のように金銭以外での供託も認められています。

第8条(営業保証金の額等)
6 営業保証金は、(中略)、国債証券、地方債証券その他の国土交通省令で定める有価証券(中略)をもって、これに充てることができる

引用:e-GOV法令検索「旅行業法」https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=327AC0100000239

このように、国債証券や地方債証券などの有価証券でも供託をすることができることができます。

ただし、有価証券の価額については、額面金額通りではなく、決められた算定基準に基づいて算定されるものもありますので、詳しくは登録行政庁や供託所、旅行業登録を専門にしているような行政書士などに問い合わせるとよいでしょう。

2-4.旅行業者代理業者や旅行サービス手配業者について

旅行業者代理業者や旅行サービス手配業者は、営業保証金を供託する必要はありません。これは、旅行業者代理業であれば、所属旅行業者が営業保証金を供託していますし、旅行サービス手配業者は、そもそも旅行者とは取引を行わないからです。

なお、旅行業者代理業は、営業保証金の供託は必要ありませんが、取引をする所属旅行業者が供託をしたことを登録行政庁に届け出たあとでなければ、事業を開始することはできません。

3.営業保証金を供託する

供託は、旅行業者の主たる営業所を管轄する供託所(法務局)にて行います。

はじめに、供託所に「営業保証金供託書」を提出します。次に、指定された口座に営業保証金を入金します。すると、供託所にて営業保証金供託書を発行してくれますので、最後に、この営業保証金供託所の写しを登録行政庁に届け出ます。これで、供託手続きは完了です。

営業保証金を供託したことを登録行政庁に届け出なければ、旅行業を始めることはできません。新規登録の場合、営業保証金を供託したことの届出は、登録通知書を受け取ってから14日以内に行わなければいけません。

営業保証金を供託して、登録行政庁に届出るまでが14日以内であることにお気を付けください。

営業保証金供託書の作成については、仮作成したものを事前に確認してくれる供託所もありますので、いきなり供託所に行って申請するのではなく、最初に電話等で相談してから手続きを始めることをお勧めします。

また、供託は司法書士が代理で行うこともできますので、専門家に依頼するのも良いでしょう。

4.追加で営業保証金を供託しなければいけない時とは

これまでは、新規で旅行業登録をする場合の営業保証金の供託について解説してきましたが、登録完了後も営業保証金を追加で供託しなければならない時というのが3つあります。

4-1.旅行者との取引額が増加した場合

例えば、第2種旅行業者が1,100万円の営業保証金を供託していたが、年間の取引額が7億円を超えたといった場合には、規定する額に不足する額(この場合は200万円)を追加で供託しなければなりません(法第9条第1項)。

供託を行なわなければならない期間は、毎事業年度終了後100日以内で、この期間内に供託を行って登録行政庁に届出なければ、引き続き事業を継続することができません。

4-2.変更登録をした場合

例えば、第3種旅行業者から第2種旅行業者に変更登録した場合、旅行者との取引額は同じでも営業保証金の供託額は変わります。ですので、変更登録をした結果、供託額が不足する場合は、その不足する額を追加で供託しなければなりません(法第9条第5項)。

この場合、追加の供託を行なったことを登録行政庁に届出なければ、第2種旅行業者として事業を開始することができません。

4-3.営業保証金の額が改正された場合

国土交通省令の改正により、営業保証金の額が改正された場合で、結果供託すべき営業保証金の額が不足する場合は、その不足する額を供託しなければなりません(法第8条第2項)。

供託を行なわなければならない期間は、その施行の日から3ヶ月以内で、この期間内に供託を行って登録行政庁に届出なければ、事業を継続することができません。

5.営業保証金が取り戻せる時とは

追加で供託をしなければいけない時があるということは、逆に営業保証金が取り戻せる時もあります。

5-1.旅行者との取引額が減少した場合

旅行者との取引額が減少して、供託している営業保証金の額が、供託しなければならない額を超える場合は、その超える額の営業保証金を取り戻すことができます(法第92項)。

5-2.変更登録をした場合

変更登録をしたことで、供託している営業保証金の額が、供託しなければならない額を超える場合は、その超える額の営業保証金を取り戻すことができます(法第97項)。

5-3.営業保証金の額が改正された場合

国土交通省令の改正により、営業保証金の額が改正された場合で、供託しなければならない額を超える場合は、その超える額の営業保証金を取り戻すことができます(法第84項)。

5-4.旅行業協会に入会した場合

旅行業協会に入会して、営業保証金の代わりに弁済業務保証金分担金を旅行業協会に納付した場合は、それまで供託していた営業保証金を取り戻すことができます(法第53条、法第54条第1項)。

5-5.旅行業登録が抹消された場合

事業を廃業した等の理由で、旅行業登録が抹消された場合も、供託していた営業保証金を取り戻すことができます(法第20条第3項)。

営業保証金を取り戻す際は、事前に6ヶ月以上の公告を行うなどの手続きが必要となります。

6.まとめ

営業保証金制度の趣旨や制度の仕組み、供託する金額などについて詳しく解説してみましたが、いかがだったでしょうか。

旅行業登録を行って事業を始めるためには、必ず営業保証金を供託するか、旅行業協会に入会して弁済業務保証金分担金を納付しなければならないのですが、この弁済業務保証金分担金については、別の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
旅行業協会と弁済業務保証金分担金。営業保証金との違いも徹底解説!

営業保証金と弁済業務保証金分担金のどちらを選んだ方がいいのかは、登録種別によっても変わってきますので、まずは両方の制度をよく理解するところから始めていきましょう。

飛行機
カバン
旅行業にまつわる
疑問や不安をサポート!
 お気軽にお問い合わせ下さい

TOP