第１種旅行業に登録するための要件と手続きを解説。

第1種旅行業は、海外・国内の募集型企画旅行、受注型企画旅行、手配旅行の全てが取り扱える、まさにオールマイティな旅行業登録です。ただ、それゆえに登録要件が厳しく、簡単には取得できないというのも、第１種旅行業の特徴です。そこで、旅行業登録を専門で取り扱う行政書士が、第1種旅行業登録ついて丁寧に解説します。

この記事では、第１種旅行業の登録要件や登録手続きなどをわかりやすく解説しているので、登録を検討している方は、是非参考にして下さい。

1.第1種旅行業にできること

第１種旅行業は、以下のように旅行業務の全てが取り扱える登録区分です。

※観光庁HP「（図１）旅行業等の登録区分」をもとに作成

それでは、第１種旅行業ができることを、もう少し詳しく見て行きましょう。

1-1.企画旅行

企画旅行とは、旅行業者が旅行計画を作成して、その旅行計画に必要な宿泊先や交通機関等（バス・列車・飛行機など）を旅行会社が契約しておいて、旅行者に提供するような旅行商品のことを言います（旅行業法第2条第1項第1号）。

企画旅行のうち「募集型企画旅行」とは、あらかじめ旅行業者が旅行計画を作成して、旅行者を募集するタイプの企画旅行のことで、具体的には旅行代理店が扱うパッケージツアーなどが、これに当たります。

特に、海外の募集型企画旅行を取り扱えるのは、旅行業の登録区分のなかでも第１種旅行業だけですので、海外のパッケージツアーを取り扱いたいという方は、第１種旅行業登録を検討する必要があるでしょう。

もうひとつの企画旅行である「受注型企画旅行」は、旅行者からの依頼に応じて、旅行業者が旅行計画を作成するもので、修学旅行や社員旅行などの団体旅行が、これに当たります。

第１種旅行業は、受注型企画旅行についても、海外・国内の両方を取り扱うことができます。

1-2.手配旅行

手配旅行とは、旅行者と運送・宿泊事業者との間で、旅行者に代理して運送・宿泊事業者と契約の締結・媒介・取次をしたり、運送・宿泊業者に代理して旅行者と契約の締結・媒介・取次をしたりする旅行業務を言います（旅行業法第２条第１項第３号・第４号）。

具体的には、旅行業者の店頭やWebサイトなどで、旅館やホテルなどの宿泊施設や飛行機・JRなどのチケットを手配するような場合があたります。

第１種旅行業は、海外・国内のいずれの手配旅行も取り扱うことができます。

1-3.他社募集型企画旅行の代売

旅行業者は、他の旅行業者が実施する募集型企画旅行について、代理して旅行者に販売することができます（旅行業法第14条の2）

第１種旅行業は、他社の募集型企画旅行のうち、海外と国内の両方を取り扱うことができます。

1-4.相談業務

相談業務とは、旅行に関する相談に応ずる行為を言い、旅行業者は、この相談業務を有料で行うことができます（旅行業法第1条第1項第9号）。

第１種旅行業は、海外と国内のいずれの相談業務も取り扱うことができます。

2.第1種旅行業の登録要件

第１種旅行業の登録をおこなう為には、以下のような要件を満たさなければいけません。

（１）申請者が拒否事由に該当しないこと
（２）旅行業務取扱管理者を選任できること
（３）事業目的に「旅行業」又は「旅行業法に基づく旅行業」の記載があること
（４）基準資産額を確保すること
（５）営業保証金の供託又は弁済業務保証金分担金の納付をすること

各項目について、詳しく見て行きましょう。

2-1.申請者が拒否事由に該当しないこと

申請者が、以下にあげる項目のいずれかに該当する場合は、登録することができません（旅行業法第6条第１項第１～８号）。

※e-GOV法令検索「旅行業法」をもとに、行政書士つなぐ法務事務所にて作成

特に申請者が法人の場合は、⑦にあるように①～④や⑥に該当する役員がいると拒否事由に該当して登録を拒否されてしまいますので、注意が必要です。

2-2. 旅行業務取扱管理者を選任できること

旅行業務取扱管理者とは、旅行業者が法令に基づいた運営を行うよう管理・監督をする役割を担う人のことで、営業所ごとに選任することが義務付けられています（旅行法第11条の2）。

旅行業務取扱管理者の具体的な役割は、以下の10項目です（旅行業法規則第10条）。

引用：一般社団法人日本旅行業協会「旅行業法解説　約款例集解説」

第１種旅行業の場合、海外の募集型企画旅行を取り扱うことが目的で、旅行業登録をすることがほとんどでしょうから、旅行業務取扱管理者は「総合旅行業務取扱管理者」試験の合格者から選任します。

ただし、試験に合格していれば良いというわけではなく、旅行業務取扱管理者についても、前段で出てきた「拒否事由」のうち、①～⑥のいずれかに該当する場合は、選任できません。

2-3. 事業目的に「旅行業」又は「旅行業法に基づく旅行業」の記載があること

申請者が法人の場合、定款と登記簿謄本の事業目的には、「旅行業」もしくは「旅行業法に基づく旅行業」のどちらかの文言が記載されていなければいけません。

これは、観光庁の内部マニュアルによるものなのですが、各自治体でも厳格に運用されていますので、これ以外の文言では登録できません。

2-4. 基準資産額を確保すること

第１種旅行業の登録に必要な基準資産額は「3,000万円」と定められています。

基準資産額とは、旅行業登録の際に旅行業者が、あらかじめ保持しておかなければならない自社の資産の金額の事です。

自社の基準資産額は、以下の式で算出します。

自社の基準資産額＝資産の総額－負債の総額－繰延資産－営業権（のれん）－不良債権－営業保証金等

基準資産額については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひこちらもご覧ください。

旅行業に必要な基準資産額の計算方法や足りない時の対処法を解説！

2-5. 営業保証金の供託又は弁済業務保証金分担金の納付をすること

旅行業法では、「旅行業者が倒産した」などの理由で、すでに支払われた旅行を旅行者に提供できないといった場合に備え、そういった場合でも旅行者が旅行代金等の弁済を受けることができるという制度を設けています。

このうち、営業保証金とは旅行業者が供託所に供託する供託金のことを言います。旅行者は、万が一の場合には、この供託金の中から弁済を受けます。

営業保証金の額は、前事業年度の旅行業務に関する旅行者との取引額に応じて決まっているのですが、第1種旅行業の場合は、営業を開始するまでに、少なくとも以下の金額を供託しなければいけません（旅行業法8条、旅行業法施行規則第6条の2）。

 一方、弁済業務保証金分担金とは、旅行業者が旅行業協会に入会して、旅行業協会に納付するお金のことを言います。旅行者は、万が一の場合は、旅行業協会を通じて弁済を受けます。

弁済業務保証金分担金の額も、営業保証金と同じく前事業年度の旅行業務に関する旅行者との取引額に応じて決まっているのですが、その金額は営業保証金の5分の１となります。

営業保証金や弁済業務保証金分担金については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひこちらもご覧ください。

営業保証金を供託するってどうするの？制度の概要や必要な金額も詳しく解説

旅行業協会と弁済業務保証金分担金。営業保証金との違いも徹底解説！

3.第1種旅行業の登録手続

弁済業務保証金分担金を納付して第１種旅行業登録をする場合の登録手続きは、以下の通りです。

旅行業協会には、「日本旅行業協会（JATA）」と「全国旅行業協会（ANTA）」のふたつがありますが、ほとんどの方がJATAに入会して登録されます。

第１種旅行業にJATAが選ばれるのは、「第１種旅行業については、入会金がANTAよりもJATAの方が安い」「ANTAよりもJATAの方が、入会手続きが早い」「協会員に海外旅行を扱っている旅行会社が多い」などの理由によります。

第１種旅行業の登録行政庁は観光庁ですが、申請は各地の管轄運輸局に登録申請書類を提出（本申請）します。ただし、事前に観光庁に仮申請を行って、観光庁の審査やヒアリングを受けた後に、本申請を行います。

観光庁のヒアリングでは、主に「事業計画」や「資産基準」「緊急時の事故処理体制」についてチェックを受けます。特に2017年の自己破産した「てるみくらぶ」の事件以降、資産基準については、丁寧な説明が求められます。

申請から営業開始まで、３～４か月ほどかかります。なお、観光庁の審査で書類に不備などを指摘されると、これ以上かかります。

また、旅行業登録の有効期限は、登録の日から起算して5年ですので、5年毎に更新の手続きも必要です。

4.まとめ

第１種旅行業登録とは。業務範囲や登録要件、登録手続きについて解説しましたが、いかがだったでしょうか？

第１種旅行業登録は、基準資産額が3,000万円と高く、また営業保証金や弁済業務保証金分担金も高額なため、これらの資産要件を満たすことが、登録の第１歩と言えるでしょう。

また、他の登録区分と異なり、登録にあたっては観光庁の審査やヒアリングがあることから、ハードルの高さを感じ、自社で対応できるか不安になる方も多いです。

とはいえ、何といっても海外の募集型企画旅行を扱えるのは、第１種旅行業だけですから、しっかりと準備をして登録を目指しましょう。