2022/7/6
2022/07/12
地域限定旅行業に登録するための要件と手続きを解説。
地域限定旅行業は、国内の限定されたエリアで募集型企画旅行・受注型企画旅行・手配旅行が取り扱える旅行業登録です。営業できるエリアは限定されていますが、旅行業登録の中では、一番取得しやすい登録区分です。
そこで、旅行業登録を専門で取り扱う行政書士が、地域限定旅行業登録ついて丁寧に解説します。
この記事では、地域限定旅行業の登録要件や登録手続きなどをわかりやすく解説しているので、登録を検討している方は、是非参考にして下さい。
1.地域限定旅行業の登録要件
地域限定旅行業の登録をおこなう為には、以下のような要件を満たさなければいけません。
(1)申請者が拒否事由に該当しないこと
(2)旅行業務取扱管理者を選任できること
(3)事業目的に「旅行業」又は「旅行業法に基づく旅行業」の記載があること
(4)基準資産額を確保すること
(5)営業保証金の供託又は弁済業務保証金分担金の納付をすること
各項目について、詳しく見て行きましょう。
1-1.申請者が拒否事由に該当しないこと
申請者が、以下にあげる項目のいずれかに該当する場合は、旅行業登録をすることができません(旅行業法第6条第1項第1~8号)。
拒否事由 | |
① | 過去5年間に旅行業等の登録を取り消された者(または、過去5年間に旅行業等の登録を取消された法人において、当時役員であった者) |
② | 過去5年間に禁錮以上の刑、または旅行業法に違反して罰金刑に処せられた者 |
③ | 暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者 |
④ | 申請前5年以内に旅行業務等に関し不正な行為をした者 |
⑤ | 未成年者でその法定代理人(親権者等)が、①~⑤のいずれかに該当するもの |
⑥ | 心身の故障により旅行業、旅行業者代理業を適正に遂行することができない者として国土交通省令で定めるもの又は破産手続き開始の決定を受けて復権を得ない者 |
⑦ | 申請者が法人の場合、①~④、⑥のいずれかに該当する役員がいるもの |
⑧ | 暴力団員等がその事業活動を支配する者 |
※e-GOV法令検索「旅行業法」をもとに、行政書士つなぐ法務事務所にて作成
特に申請者が法人の場合は、⑦にあるように①~④や⑥に該当する役員がいると拒否事由に該当してしまい、旅行業登録を拒否されてしまいますので、注意が必要です。
1-2. 旅行業務取扱管理者を選任できること
旅行業務取扱管理者とは、旅行業者が法令に基づいた運営を行うよう管理・監督をする役割を担う人のことで、営業所ごとに選任することが義務付けられています(旅行業法第11条の2)。
旅行業務取扱管理者の具体的な役割は、以下の10項目です(旅行業法施行規則第10条)。
旅行業務取扱管理者の役割 | |
① | 旅行に関する計画の作成に関する事項 |
② | 旅行業務の取扱い料金の掲示に関する事項 |
③ | 旅行業約款の掲示及び備置きに関する事項 |
④ | 取引条件の説明に関する事項 |
⑤ | 契約書面の交付に関する事項 |
⑥ | 旅行の広告に関する事項 |
⑦ | 運送等サービスの確実な提供等による企画旅行の円滑な実施に関する事項 |
⑧ | 旅行に関する苦情の処理に関する事項 |
⑨ | 契約締結の年月日、契約の相手方その他の旅行者又は旅行に関するサービスを提供する者と締結した契約の内容に係る重要な事項についての明確な記録又は関係書類の保管に関する事項 |
⑩ | 上記のほか、取引の公正、旅行の安全及び旅行者の利便を確保するため必要な事項として観光庁長官が定める事項 |
引用:一般社団法人日本旅行業協会「旅行業法解説 約款例集解説」
後述しますが、地域限定旅行業の場合、他社の募集型企画旅行の代理販売と相談業務であれば海外旅行も扱えます。
ですので、海外旅行を扱う場合は「総合旅行業務取扱管理者」試験の合格者から、国内旅行のみを扱う場合は「総合旅行業務取扱管理者」「国内旅行業務取扱管理者」「地域限定旅行業務取扱管理者」試験の合格者から、旅行業務取扱管理者を選任します。
ただし、合格者であっても前段の「拒否事由」の①~⑥のいずれかに該当する場合は、選任できません。
1-3. 事業目的に「旅行業」又は「旅行業法に基づく旅行業」の記載があること
申請者が法人の場合、定款と登記簿謄本の事業目的には、「旅行業」もしくは「旅行業法に基づく旅行業」のどちらかの文言が記載されていなければいけません。
これは、観光庁の内部マニュアルによるものなのですが、各自治体でも厳格に運用されていますので、これ以外の文言では登録できません。
1-4. 基準資産額を確保すること
地域限定旅行業を登録するために必要な基準資産額は「100万円」と定められています。
基準資産額とは、旅行業登録の際に旅行業者が、あらかじめ保持しておかなければならない自社の資産の金額の事です。
登録種別 | 基準資産額 |
地域限定旅行業 | 100万円 |
自社の基準資産額は、以下の式で算出できます。
自社の基準資産額=資産の総額-負債の総額-繰延資産-営業権(のれん)-不良債権-営業保証金等
基準資産額については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひこちらもご覧ください。
旅行業に必要な基準資産額の計算方法や足りない時の対処法を解説!
1-5. 営業保証金の供託又は弁済業務保証金分担金の納付をすること
旅行業法では、「旅行業者が倒産した」などの理由で、旅行業者が旅行代金の返済ができなくなった場合でも、旅行者が旅行代金等の弁済を受けることができる制度を設けています。
制度には、「営業保証金制度」と「弁済業務保証金制度」の2つがあります。旅行業者は、必ずどちらかの制度を利用できるようにしておかなければいけません。
営業保証金制度では、旅行業者が営業保証金(供託金)を供託所に供託します。万が一の場合、旅行者はこの供託金の中から弁済を受けます。
営業保証金の額は、前事業年度の旅行業務に関する旅行者との取引額に応じて決まりますが、地域限定旅行業の場合は、営業を開始するまでに、少なくとも以下の金額を供託しなければいけません(旅行業法8条、旅行業法施行規則第6条の2)。
区分 | 営業保証金 |
地域限定旅行業 | 15万円 |
一方、弁済業務保証金制度では、旅行業者が旅行業協会に入会して、旅行業協会に弁済業務保証金分担金を納付します。万が一の場合、旅行者は旅行業協会を通じて弁済を受けます。
弁済業務保証金分担金の額も、営業保証金と同じく前事業年度の旅行業務に関する旅行者との取引額に応じて決まっているのですが、その金額は営業保証金の5分の1となります。
区分 | 弁済業務保証金分担金 |
地域限定旅行業 | 3万円 |
営業保証金や弁済業務保証金分担金については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひこちらもご覧ください。
営業保証金を供託するってどうするの?制度の概要や必要な金額も詳しく解説
旅行業協会と弁済業務保証金分担金。営業保証金との違いも徹底解説!
2.地域限定旅行業の登録手続
地域限定旅行業の登録手続きの流れは以下の通りです。
登録手続の流れ | |
STEP1 | 旅行業協会への入会申込・審査・入会承諾書の受領 |
STEP2 | 各都道府県知事へ登録申請書類を提出 |
STEP3 | 登録通知書の受領 |
STEP4 | 協会に弁済業務保証金分担金(+入会金・年会費)を納付 |
GOAL! | 営業開始 |
旅行業協会には、「日本旅行業協会(JATA)」と「全国旅行業協会(ANTA)」のふたつがあります。旅行業協会への入会は任意ですが、地域限定旅行業登録で旅行業協会に入会する場合は、ほとんどの方がANTAへの入会を選ばれます。
旅行業協会に入会する主な理由は、弁済業務保証金制度を利用できるからですが、地域限定旅行業登録を行う事業者にANTAが選ばれる理由は、年会費がJATAの1/3程度であることがあげられます。
一方で地域限定旅行業の営業保証金は15万円ですので、登録時には一旦営業保証金を供託しておいて、ある程度売上が上がるようになってから入会を検討される事業者もいます。
なお、「旅行業協会への入会→旅行業登録申請→営業開始」までの期間は、どちらの旅行業協会に入会するかで異なります。
JATAは随時入会を受け付けているで、旅行業協会の入会から旅行業登録までの期間は2~3ヶ月程度です。一方、ANTAは2ヶ月に1度のペースで入会を受け付けているため、この期間が3~4ヶ月程度と、JATAに比べて1~2ヶ月程度長くなります。もちろん書類に不備などがあれば、期間はもっと長くなります。
地域限定旅行業の登録行政庁は、各都道府県知事です。具体的には、自治体の担当窓口(観光課、観光振興課等)に提出します。
登録申請書類の提出方法は自治体によって異なり、郵送や代理申請を受け付けている自治体もあれば、申請者が直接持参しなければならない自治体もあります。その際に、「事業計画」や「資産基準」「事故処理体制」等についてヒアリングを受けることもあります。
登録が完了すると登録通知書が送付されます。登録通知書を受領したら、2週間以内に弁済業務保証金分担金等を協会に納付して、旅行業を始めることができます。
3.地域限定旅行業にできること
最後に、地域限定旅行業に登録することで、何ができるのかをご案内します。
地域限定旅行業は、以下のように国内の限定された範囲でのみ旅行業務が取り扱える登録区分です。
企画旅行 | 手配旅行 |
他社募集型企画旅行の代売 |
相談 |
||||||
募集型 | 受注型 | ||||||||
海外 | 国内 | 海外 | 国内 | 海外 | 国内 | 海外 | 国内 | ||
地域限定旅行業 | ー | △ | - | △ | - | △ | 〇 | 〇 | 〇 |
※観光庁HP「(図1)旅行業等の登録区分」をもとに作成
それでは、地域限定旅行業ができることを、もう少し詳しく見て行きましょう。
3-1.企画旅行
企画旅行とは、旅行業者が旅行計画を作成して、その旅行計画に必要な宿泊先や交通機関等(バス・列車・飛行機など)を旅行会社が契約しておいて、旅行者に提供するような旅行商品のことを言います(旅行業法第2条第1項第1号)。
企画旅行のうち「募集型企画旅行」とは、あらかじめ旅行業者が旅行計画を作成して、旅行者を募集するタイプの企画旅行のことです。具体的には旅行代理店が扱うパッケージツアーなどが、これに当たります。
もうひとつの企画旅行である「受注型企画旅行」は、旅行者からの依頼に応じて、旅行業者が旅行計画を作成するもので、修学旅行や社員旅行などの団体旅行が、これに当たります。
地域限定旅行業では、募集型・受注型を問わず企画旅行のうち営業所の所在する市町村の区域と隣接市町村の区域および観光庁長官が定める区域(以下、隣接市町村等)のみを取り扱うことができます。
【隣接市町村等とは】
地域限定旅行業が取り扱える企画旅行の範囲は、「隣接市町村等」とされていますが、これは、以下の3つのエリアで構成されます。
①自らの営業所の存する市町村の区域
②①に隣接する市町村の区域
③観光庁長官の定める区域
まず、①と②を図で表すと、以下のようになります。
引用:観光庁HP「チラシ:第3種旅行業・地域限定旅行業の実施区域が見直されました」より、一部抜粋
ご覧の通り、営業所のおかれている市町村とそこに隣接している市町村が、旅行業務を実施できる範囲になります。
次に、③の観光庁長官の定める区域は、「旅行業法施行規則第一条の三第三号の規定に基づき観光庁長官が定める区域」という告示で定められていて、大きく3つの区域が指定されています。
こちらも、図で解説します。
区域1:本土と一般定期航路で結ばれる離島
区域2:半島地域
区域3:地域の交通・観光の実態を踏まえた特例
区域1と区域2は、海を挟んだ半島や離島のうち、直通で結ばれる一般定期航路のある地域については、営業所のある市町村と隣接していなくても旅行業務を実施できる範囲に含めることができます。
区域3は、駅・空港・港湾・バスターミナル等の交通拠点と営業所のある市町村および隣接市町村が結ばれていれば、交通拠点のある市町村の区域内(以下、拠点区域)も旅行業務を実施できる範囲に含めることができます。
区域3は、平成30年に新たに追加されました。
区域3のメリットは、拠点区域が催行エリアに含まれることで交通拠点間の運送手配が可能になることです。このことで、地方の旅行業者が行うような着地型旅行の集客がしやすくなっています。
3-2.手配旅行
手配旅行とは、旅行者と運送・宿泊事業者との間で、旅行者に代理して運送・宿泊事業者と契約の締結・媒介・取次をしたり、運送・宿泊業者に代理して旅行者と契約の締結・媒介・取次をしたりする旅行業務を言います(旅行業法第2条第1項第3号・第4号)。
具体的には、旅行業者の店頭やWebサイトなどで、旅館やホテルなどの宿泊施設や飛行機・JRなどのチケットを手配するような場合があたります。
地域限定旅行業は、隣接市町村等のエリアに限り手配旅行を取り扱うことができます。
3-3.他社募集型企画旅行の代売
旅行業者は、他の旅行業者が実施する募集型企画旅行について、代理して旅行者に販売することができます(旅行業法第14条の2)
地域限定旅行業は、海外・国内のいずれも取り扱うことができます。
3-4.相談業務
相談業務とは、旅行に関する相談に応ずる行為を言い、旅行業者は、この相談業務を有料で行うことができます(旅行業法第1条第1項第9号)。
地域限定旅行業は、海外・国内のいずれの相談業務も取り扱うことができます。
4.まとめ
地域限定旅行業登録の業務範囲や登録要件、登録手続きについて解説しましたが、いかがだったでしょうか?
地域限定旅行業は、催行範囲が限定されていますが、近年は地域密着型の着地型旅行が注目されていることから、地域の観光事業者や宿泊事業者が取得を検討するケースが増えてきています。
また、旅行業登録の中で登録要件のハードルが一番低いことから、最初に地域限定旅行業を取得して、その後、第3種や第2種にステップアップしていく事業者も多いです。
「基準資産額が確保できない時の対処法」や「営業保証金と弁済業務保証金分担金のどちらを選べば良いか」などは、記事中でご案内した別記事でも取り上げていますので、是非これらの記事も参考にして頂いて、登録を実現してください。