2023/6/11
2023/06/26
旅行会社を法人にするメリットとは?法人成りのポイントも解説
最初は個人事業主として始めた旅行会社が大きくなってくると、「法人成り」を検討するようになるのではないでしょうか。一方で、法人にすると「旅行業登録」はどうなるのかといった疑問もあると思います。
そこで、旅行業登録を専門で取り扱う行政書士が、旅行会社の法人成りついて丁寧に解説します。
この記事では、旅行会社が法人成りする際のポイントをわかりやすく解説しているので、法人成りを検討している方は、是非参考にして下さい。
1.法人成りのメリット
旅行会社の法人成りには以下のようなメリットがあります。
①税制上有利になる
状況次第では個人事業主でいるよりも法人成りした方が節税に繋がる可能性があります。
具体的には以下の3つが挙げられます。
- 役員報酬が給与所得控除の対象となる
- 所得によっては所得税の税率が低くなる場合がある
- 消費税が最大2年間免除される
ただし、これらのメリットが本当に受けられるかどうかについては、個人で判断するのではなく、必ず法人成りの税務に詳しい税理士に相談することをお勧めします。
②社会的信用度が上がる
旅行業界は、大小さまざまな企業が混在していて、個人事業主でも法人に負けず劣らず活躍できる業界です。
とはいえ、運送会社やホテル・旅館の中には、信用度の問題から個人の旅行会社とは取引をしないという事業者(特に大手企業)もあります。また、個人の運営する旅行会社に不安を感じる旅行者(=消費者)も一定数います。
旅行会社が法人成りすると、以下のような効果が期待できます。
- これまで取引できなかった大手の運送会社やホテル・旅館との取引ができるようになる
- これまで選んでいただけなかった顧客層を取り込めるようになる
- 金融機関からの融資が受けやすくなる
③有限責任である
個人事業主の場合、「会社の資産」と「経営者の私的な財産」の区別がありません。万が一、会社が債務不履行に陥った場合、個人事業主の持つ全ての財産をもって補てんすることになります。
一方、法人の場合、「会社の資産」と「経営者の私的な財産」は切り離されます。その為、会社が債務不履行に陥った場合、経営者は出資した金額は失いますが、私的な財産を使ってまで損害を補てんする必要はありません。
なお、経営者個人が会社の借り入れの保証人になっている場合は、結果として損害の補てんに経営者の私的財産を使うことになります。
2.法人成りのデメリット
一方で、旅行会社の法人成りのデメリットには以下のようなものがあります。
①赤字でも税金を支払う必要がある
個人事業主の場合、所得税・住民税・事業所得税が個人に課税されますが、事業所得税は事業所得が290万円までは非課税です。
一方、法人の場合、法人税・事業税・法人住民税が法人に課税されますが、法人住民税は赤字であっても年間最低7万円が課税されます。さらに、法人とは別に経営者個人にも所得税と住民税が課税されます。
このように、法人成りは税制上のメリットとデメリットの両方を検討する必要がありますので、必ず法人成りの税務に詳しい税理士に相談して下さい。
②社会保険への加入が必須になる
個人事業主の場合、雇用している従業員が4人以下であれば、社会保険(厚生年金・健康保険)への加入は義務ではありません。
一方、法人の場合は役員が一人の場合でも社会保険への加入は義務となります。社会保険料は従業員と会社が半分ずつ負担するため、従業員が増えると人件費とあわせて社会保険料も増加します。
③事務的な負担が増える
個人事業主の確定申告と比べ、法人の決算は必要な書類も多く作成にかかる作業量も増えます。また、社会保険などの手続も必要となる為、全体的に必要な事務作業は増えます。
これらの作業を外部に委託すると金銭的コストもかかります。
3.旅行会社の法人成りと旅行業登録
一般的に個人事業主が法人成りするかどうかは、主に税務を中心に検討します。しかし、旅行会社で法人成りを検討する場合、税務に加えて「旅行業登録」についても検討する必要があります。
実は、個人事業主として取得した旅行業登録は法人に引き継ぐことはできません。
ですから、個人事業主から法人に切り替わる際に、業務を中断することなく旅行業を取り扱って行くためには、事前に法人として旅行業登録をしておく必要があります。
個人事業主が法人成りする場合の手続の流れは、以下のようになります。
法人設立
▼
(法人)旅行業登録申請
▼
(法人)旅行業登録
▼
(個人)廃業届
なお、新規に旅行業登録を行うため、旅行業登録番号も新しいものが交付されます。
4.法人成りする場合の注意事項
旅行会社を法人成りする際には以下の事項に注意をしながら手続きを進めていきましょう。
①基準資産額
新たに法人として旅行業登録を行うには、設立する法人が以下の基準資産額を満たしていなければなりません。
登録区分 | 基準資産額 |
第1種旅行業者 | 3,000万円 |
第2種旅行業者 | 700万円 |
第3種旅行業者 | 300万円 |
地域限定旅行業者 | 100万円 |
開始貸借対照表上で、これらの基準資産額が満たされていなければ、登録ができませんので、注意が必要です。
基準資産額については、以下の記事で詳しく解説していますので、併せてお読み下さい。
旅行業に必要な基準資産額の計算方法や足りない時の対処法を解説!
②営業保証金(又は弁済業務保証金分担金)
業務に切れ目なく法人成りする為には、個人事業主として供託した営業保証金とは別に、法人として新たに営業保証金を供託する必要があります。弁済業務保証金分担金についても同様です。
個人事業主として供託した営業保証金は、法人の旅行業登録の完了後に個人事業主の旅行業登録の廃業届とあわせて返還の手続を行うことで返ってきます。ただし、返還されるまでに6ヶ月程度かかります。弁済業務保証金分担金についても同様です。
営業保証金や弁済業務保証金分担金については、以下の記事で詳しく解説していますので、併せてお読みください。
営業保証金を供託するってどうするの?制度の概要や必要な金額も詳しく解説
旅行業協会と弁済業務保証金分担金。営業保証金との違いも徹底解説!
③旅行業務取扱管理者
旅行業登録をするためには、旅行業務取扱管理者を選任しなければなりません。
ところが旅行業務取扱管理者は常勤性・専従性が求められていますので、2つ以上の営業所での兼務が原則できません。
ですので個人事業主として営業している旅行会社に選任されている旅行業務取扱管理者を、法人の旅行業務取扱管理者に選任することができません。
その為、法人なりにあたっては別の旅行業務取扱管理者を確保する必要があります。
もちろん個人事業主の旅行業登録を廃止した後であれば、その方も法人の旅行業務取扱管理者に選任できます。
④事業目的
法人設立の際に事業目的を定款に記載しますが、旅行業登録を行うのであれば、以下のどちらかの文言を入れなければなりません。
- 旅行業
- 旅行業法に基づく旅行業
これ以外の文言(例:旅行事業、旅行に関すること)だと、事業目的の変更が必要になりますので、定款作成の際は注意しましょう。
⑤賃貸借契約書の名義
個人事業主として賃借したテナントを営業所としている場合で、法人成り後も引き続き同じテナントを営業所とするのであれば、賃貸借契約を新設法人との契約に切り替える等の対応が必要になります。
また、自己所有物件を営業所としている場合で、引き続き新設法人の営業所するのであれば、個人と法人との間で賃貸借契約等の書類を用意する必要があります。
5.まとめ
個人事業主から法人成りするタイミングというのは、税務のメリットが受けられそうになった時であることが多いことから、その相談先も税理士であることがほとんどです。
しかし、旅行業法に詳しい税理士は少ないことから、旅行業登録を意識せずに進めてしまうと、余計な時間や費用がかかってしまうこともあります。
特に、個人事業主から法人に切り替わるタイミングで旅行業務が取り扱えない期間が発生するといった事態を起こさないためにも、事前の準備とスケジュール管理は必須です。
もし、手続きに不安がある場合は、旅行業登録を専門に扱っている行政書士に相談してみるのも良いでしょう。