2022/8/9
2023/05/19
旅行サービス手配業にできることと登録要件や手続きを解説。
旅行サービス手配業とは、旅行業者の依頼を受けて運送や宿泊の手配などを行う、いわゆるランドオペレーター業務のできる登録区分です。
今回は、旅行業登録を専門で取り扱う行政書士が、旅行サービス手配業登録について丁寧に解説します。
この記事では、旅行サービス手配業の登録要件や登録手続きなどをわかりやすく解説しているので、登録を検討している方は、是非参考にして下さい。
1.旅行サービス手配業にできることとその背景
まず最初に旅行サービス手配業に登録すると、どのようなことができるのかをご案内します。
1-1.旅行サービス手配業が取り扱える業務
旅行サービス手配業者は、報酬を得て、旅行業者(外国の法令に準拠して外国において旅行業を営む者を含む)の依頼を受けて、以下の行為を行うことができます(旅行業法施行規則第1条)。
①運送(鉄道、バス等)又は宿泊(ホテル、旅館等)の手配
旅行業者の代わりに、運送・宿泊サービスを代理契約、媒介、取次を行うことができます。
②全国通訳案内士及び地域通訳案内士以外の有償によるガイドの手配
旅行業者の代わりに、無資格の有償ガイドの手配を行うことができます。なお、無償ガイド(いわゆるボランティアガイド)や全国通訳案内士・地域通訳案内士の手配については、旅行サービス手配業の登録は必要ありません。
③免税店における物品販売の手配
旅行業者の代わりに、免税店の手配・案内を行うことができます。
少しわかりづらいかもしれませんので、旅行者と旅行業者と旅行サービス手配業者の関係を図で見てみましょう。
※出典:観光庁HP「旅行サービス手配業の取引例」より
このように、旅行サービス手配業者は、旅行者ではなく、旅行業者の依頼に応じてサービスを提供しているというのが特徴です。
そして、旅行業者の代わりに、①~③の行為を行う場合には、旅行サービス手配業の登録が必要となります。
なお、これらの規制は日本国内に限られるものですので、海外おける上記の行為は規制の対象外です(もちろん、現地の法律には従わなければなりません)。
1-2.旅行サービス手配業の登録区分ができた背景
旅行サービス手配業という登録区分は、2016年1月15日に起きた軽井沢スキーバス事故がきっかけで創設されました。
この事故は、スキーツアー客を乗せた貸切バスがガードレールを突き破り、道路下に転落、15名の死者と26名の重軽傷者を出したという、大変痛ましい事故です。
この事故原因を調査したところ、旅行業者の代わりにバス等の手配を行ったランドオペレーターが、法令で定められた下限を下回る運賃で貸切バスを手配していることがわかりました。
これまで規制の対象外であったランドオペレーターの関与が、事故をおこした貸切バス事業の安全性の低下を招いていたわけです。
そこで改めてランドオペレーターの実態について聞取り調査したところ、以下の図のような構造的な問題があることがわかりました。
出典:観光庁「旅行業法の改正について(https://www.mlit.go.jp/common/001208567.pdf)」より
このように一部のランドオペレーターの悪質な行為が、運送サービスの安全性の低下を招いており、また訪日外国人旅行者が高額で商品を購入させられているといった実態が明らかになりました。
そこで国は、運送・宿泊サービスの安全性の確保や旅行者の公正な取引を確保するため、旅行業法を改正し、2018年より旅行サービス手配業という登録区分を新設しました。
これによりランドオペレーターも旅行業法の規制の対象となったわけです。
2.旅行サービス手配業の登録要件
旅行サービス手配業の登録をおこなう為には、以下のような要件を満たさなければいけません。
- 申請者が拒否事由に該当しないこと
- 旅行サービス手配業務取扱管理者を選任できること
- 事業目的に「旅行サービス手配業」又は「旅行業法に基づく旅行サービス手配業」の記載があること
それでは各項目について、詳しく見て行きましょう。
2-1.申請者が拒否事由に該当しないこと
申請者が、以下にあげる項目のいずれかに該当する場合は、登録することができません(旅行業法第6条第1項第1~8号)。
拒否事由 | |
① | 過去5年間に旅行業等の登録を取り消された者(または、過去5年間に旅行業等の登録を取消された法人において、当時役員であった者) |
② | 過去5年間に禁錮以上の刑、または旅行業法に違反して罰金刑に処せられた者 |
③ | 暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者 |
④ | 申請前5年以内に旅行業務等に関し不正な行為をした者 |
⑤ | 未成年者でその法定代理人(親権者等)が、①~④のいずれかに該当するもの |
⑥ | 心身の故障により旅行業、旅行業者代理業を適正に遂行することができない者として国土交通省令で定めるもの又は破産手続き開始の決定を受けて復権を得ない者 |
⑦ | 申請者が法人の場合、①~④、⑥のいずれかに該当する役員がいるもの |
⑧ | 暴力団員等がその事業活動を支配する者 |
※e-GOV法令検索「旅行業法」をもとに、行政書士つなぐ法務事務所にて作成
特に申請者が法人の場合は、⑦にあるように①~④や⑥に該当する役員がいると拒否事由に該当して登録を拒否されてしまいますので、注意が必要です。
2-2. 旅行サービス手配業務取扱管理者を選任できること
旅行サービス手配業務取扱管理者とは、旅行サービス手配業者が法令に基づいた運営を行うよう管理・監督をする役割を担う人のことで、営業所ごとに選任することが義務付けられています(旅行業法第28条)。
旅行サービス手配業務取扱管理者の具体的な役割は、以下の10項目です(旅行業法施行規則第46条)。
旅行業務取扱管理者の役割 | |
① | 取引の相手方に対する契約締結後の書面の交付に関する事項 |
② | 旅行サービス手配業務に関する苦情の処理に関する事項 |
③ | 契約に関する重要事項についての明確な記録又は関係書類保管に関する事項 |
④ | ①~③に掲げるもののほか、以下の事項(通達:観観産大622号) (1)旅行の安全を確保するため、貸切バス事業者の安全の確保に関する取り組みについて把握し、必要な場合には改善又は是正を求めること。 (2)旅行の安全に関する各種法令・通達や安全向上に資する取組み等について、貸切バス事業者との間で必要に応じて情報共有等を図ること。 (3)医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全の確保に関する法律や不当景品類及び不当表示防止法等に違反することの無いよう必要な措置を講ずること。 |
引用:一般社団法人日本旅行業協会「旅行業法解説 約款例集解説」
旅行サービス手配業取扱管理者は、「総合旅行業務取扱管理者」「国内旅行業務取扱管理者」試験の合格者、若しくは「旅行サービス手配業取扱管理者」の研修課程の終了者から選任します。
ただし、合格者であっても前段の「拒否事由」の①~⑥のいずれかに該当する場合は、選任できません。
2-3. 事業目的に「旅行サービス手配業」又は「旅行業法に基づく旅行サービス手配業」の記載があること
申請者が法人の場合、定款と登記簿謄本の事業目的に、「旅行サービス手配業」もしくは「旅行業法に基づく旅行サービス手配業」のどちらかの文言が記載されていなければいけません。
これは、観光庁の内部マニュアルによるものなのですが、各自治体でも厳格に運用されていますので、これ以外の文言では登録できません。
なお、旅行業登録には必要とされる「基準資産額」や「営業保証金(または弁済業務保証金分担金)」などは、旅行サービス手配業には必要ありません。
3.旅行サービス手配業の登録手続
旅行サービス手配業の登録手続きの流れは以下の通りです。
登録手続の流れ | |
STEP1 | 各都道府県知事へ登録申請書類を提出 |
STEP2 | 登録通知書の受領 |
GOAL! | 営業開始 |
旅行サービス手配業の登録は各都道府県知事に対して行います。
登録申請書類は、申請者が直接持参しなければならない自治体もあります。また、その際に「事業計画」や「事故処理体制」等についてヒアリングを受けることもあります。
旅行業者や旅行業務代理業者の場合は「登録票」「料金表」「旅行業約款」などを営業の開始前に準備する必要がありますが、旅行サービス手配業は登録が完了すれば、これらの準備をすることなく営業を開始できます。
これは、旅行サービス手配業者は旅行者と直接取引をする関係にないからです。
4.まとめ
旅行サービス手配業登録の業務範囲や登録要件、登録手続きについて解説しましたが、いかがだったでしょうか?
現在、外国人の日本観光のニーズが高まる中、海外の旅行会社を中心に実際に日本国内で運送やホテルを手配してくれるランドオペレーターが求められています。
また、日本人の旅行のスタイルも団体旅行から個人旅行へと変化している中で、旅行ニーズも多様化しており、こうした多種多様なニーズにきめ細かく対応する為に、現地のことを詳しく知るランドオペレーターの存在は、今後益々重要になります。
このように、今後もランドオペレーターの活躍の場は広がっていくことが予想されますので、ランドオペレーターという仕事にチャレンジしたいという方は、是非「旅行サービス手配業」の登録を検討してみてください。